悲しみの関税

常喪(じょうも) 常喪元年以降、人類の悲しみが癒えなくなった状態をいう。悲しみは減らず、消えず、双方の承知と接触とによってのみ、人から人へ移る。→凪(なぎ)の日

——『廣文館こうぶんかん国語辞典』第十二版(常喪二三年改訂)

プロローグ

 その朝、娘は五千二百十六万円だった。前日比、プラス八十万。

 湯が沸くまでのあいだ、蓮見はすみ汐里しおりは台所に立ったまま相場表を確かめる。CL-1a、九十六とう、単一由来九十七パーセント。市場が「メイ」と呼ぶものの値を毎朝見ることを、彼女は天気予報と呼んでいた。生きていたころ、娘が毎朝訊いたからだ。

 ——きょうの悲しみは、何キロ?

 やかんが鳴る。火を止める。彼女は今日も、他人の悲しみを引き受けるために、体を空けにいく。